全メニューの原価をまとめる一連の業務に、3日間ほどかかる。

これは2026年9月1日、インテグロースが複数の飲食ブランドを運営する企業の代表者へ、新メニュー開発時の原価計算についてヒアリングした際に、直接聞いた課題です。

現場では、シェフが作り方を音声で説明し、いったんAIでレシピにします。しかし、その後は人が食材・分量・単価を表へ手入力。納品書を見て1kgの価格から1gの単価を計算し、関数で食材単価を呼び出し、10人前や12人前で仕込むソースを一皿分へ割り戻します。最後に全メニューをまとめるまでが、一連の仕事です。

では、この3日仕事はAIなら本当に「一瞬」で終わるのでしょうか。

先に答えると、必要な数字がそろった後の計算と再計算は、ほぼその場で終わらせられます。一方、最初の数字集めと、味・量・売価の判断まで一瞬になるわけではありません。

この記事では、その企業から直接聞いた現在の作業手順と、打ち合わせ後にインテグロースが整理したAI活用案をもとに、AIで短くできるところと、人が残るところを分けて説明します。

なお、企業名、内部数値、実際のレシピは公開していません。計算例は、仕組みを分かりやすくするために作った架空のメニューです。

この記事でわかること

  • 原価計算の「3日間」で起きている作業
  • AIならすぐ終えやすい作業と、人が確認すべき作業
  • 原価計算に必要な、最低限の数字
  • 架空の1メニューを使った計算例
  • 1店舗・1メニューから安全に試す手順

先に結論|一瞬になるのは「計算」、仕組みにすべきなのは「数字の集め方」

AIへレシピ名だけを渡しても、正しい原価は出ません。

必要なのは、最新の仕入価格、購入した量、実際に使う量、皮や骨を除いた歩留まり、一度にできる皿数、販売価格です。これらがそろえば、計算そのものは難しくありません。

WHAT BECOMES FASTER

3日すべてが消えるのではなく、反復計算をその場で終わらせる

3 全メニューの原価をまとめる現行業務
即時 単価換算・食材突合・一皿原価の再計算
が確認 単価・歩留まり・量・味・最終売価
ヒアリングでは、「全メニューの原価をまとめる一連の業務に3日間ほどかかる」と伺いました。ただし、ストップウォッチで測った実働時間や業界平均ではありません。AI導入後の短縮時間も今後の実務検証が必要です。

大事なのは、「AIが全部決める」と考えないことです。

AIには、数字を同じ単位へそろえ、決められた式で計算し、価格変更の案を何度でも出す仕事を任せます。人は、元の数字が正しいかを確かめ、料理として成り立つ量か、店として納得できる価格かを決めます。

飲食企業へのヒアリングで見えた、現在の原価計算

まず、どの作業に3日かかっているのかを、代表者から伺った順番に整理します。

現場では、次の工程で原価をまとめていました。

  • シェフなどが作り方を音声で説明し、AIで一度レシピ化する
  • 人がスプレッドシートへ食材・分量・単価を手入力する
  • 納品書を見て、1kgの価格から1gあたりの単価を手計算する
  • 関数で食材単価を呼び出し、一皿あたりの原価を出す
  • まとめて仕込むソースは、10人前・12人前などの人数で割り戻す
  • 全メニューの原価をまとめるまでに3日間ほどかかる

さらに同社とインテグロースは、AIで実現したいこととして、納品書の読み取り、食材マスタ、レシピ音声の整理、食材とレシピの突合、一皿原価の自動算出、人による最終確認までを整理しました。

同社とAI活用を検討する中では、AIが下準備を行い、現場が品質を確かめ、経営者が最終判断する役割分担も整理しました。修正した理由を残し、次回の原価計算でも使えるようにする考え方です。

なぜ原価計算はAIと相性がよいのか

インテグロースがこれまで飲食・食品事業者へ行ったヒアリングでは、原価だけでなく、現場の細かなコスト判断を数多く聞いてきました。

別の食品事業者では、商品を仕切る資材を一枚にするか二枚にするか、燃焼時間の違う炭をどう組み合わせるかといった、1円・1秒単位の判断が日々行われていました。

原価計算は、事務担当者が表を埋めるだけの仕事ではありません。一皿の量、提供速度、仕入れの安定、店らしい品質を守りながら、利益を残す判断です。

また、インテグロースが約2か月の自社作業記録121件を分類したところ、数字の集計や確認などの「回す仕事」と、手順や判断を「残す仕事」は合計61件、全体の50.4%でした。詳しい数え方は、食品・飲食の仕事でAIは何を手伝える?で公開しています。

原価表も、一度作って終わりではありません。仕入価格が変わるたびに回し直し、料理長や経営者が直した理由を次回へ残す必要があります。この反復と記録は、AIを使いやすい領域です。

食品の商品開発を検討した際にも、「AIは味覚を体験できない」と整理しました。完成レシピだけでなく、試食後に何をどう直したかという差分こそ、会社独自の知識になります。

だから、AIへ最終判断を渡すのではなく、計算と記録をAIで速くし、人が味と商売を判断する時間を増やす。これがインテグロースの考える原価計算AIです。

現場ヒアリングから整理した「3日仕事」の中身

原価計算の式だけを見れば、難しくありません。しかしヒアリング内容を工程順に整理すると、計算の前後に人の手を何度も通っていることが分かります。

1.シェフが作り方を音声で説明する

シェフなど調理を担当する人が、ChatGPTの音声入力で作り方を説明し、AIで一度レシピへ整えます。ここまでは、すでにAIを使っています。

2.食材・分量・単価を表へ手入力する

AIでレシピにした後、人がスプレッドシートへ食材、分量、単価を入力します。AIを使っていても、レシピと仕入情報がつながっていないため、転記が残ります。

3.納品書から使える単位へ直す

現場では、「1kg 9,200円なら1gあたり9.2円」のように、納品書を見ながら手計算・手入力していました。仕入れはkgや箱、レシピはgや個なので、同じ単位へそろえなければなりません。

4.関数で単価を呼び出し、一皿へ割り戻す

食材単価はVLOOKUPなどの関数で呼び出します。ソースは10人前・12人前でまとめて仕込むため、仕込み全体の原価を一皿分へ割り戻します。

5.全メニューをまとめ、確認する

最後に各メニューの数字をまとめます。食材名の違い、単位、入力漏れ、古い価格があれば修正が必要です。ヒアリングでは、この一連の業務に「3日間ほどかかる」と伺いました。

つまり3日仕事の正体は、電卓をたたく時間だけではありません。音声をレシピへ直す、納品書を探す、転記する、単位をそろえる、仕込みを一皿へ割る、全メニューを確認する時間の合計です。

なお、実際の原価管理では、皮や骨などを除いた歩留まり、廃棄、税込・税別の統一も確認対象になります。今回のヒアリングでは、歩留まり計算の具体的な運用までは確認できなかったため、導入時に追加確認すべき項目として扱います。

AIへ渡すのは、最低限そろえた事実

最初から立派な原価管理システムを用意する必要はありません。まずは一つのメニューについて、次の情報をそろえます。

  • 料理名と食材名
  • 仕入先と納品書の更新日
  • 仕入価格、仕入量、仕入単位
  • レシピで使う量と単位
  • 仕込み一回分の量と、取れる皿数
  • 歩留まりや廃棄がある場合は、その割合
  • 販売価格

AI活用案として、レシピ音声から料理名・食材・分量・仕込み単位・提供人数を整理し、納品書から作った食材マスタと突き合わせる流れを検討しました。

販売価格まで入れれば、原価率を出せます。容器代、光熱費、人件費まで見る場合は、まず食材原価と分けて項目を追加します。

AI活用案

納品書と音声レシピを、一皿原価へつなぐ流れ

納品書を読み取り
食材マスタを作る
レシピ音声から
食材・分量・人数を整理
AIが突合・一皿原価を計算
人が確認して確定
過去の食材も検索できる形で残し、当月使う食材だけを取り出す構想です。価格や使用量が変わった際は同じ仕組みで再計算します。

紙のレシピや仕入表しかなくても、最初の一回はAIが表に起こす手伝いをできます。ただし、読みにくい数字や商品規格をAIが推測で埋めないよう、「分からない欄は空欄にし、要確認と表示する」というルールが必要です。

同社では、当月使う食材と過去に使った食材が同じ一覧に混ざり、探しにくくなっていました。過去の食材を消すと、数か月後に再び使うときに探し直さなければなりません。

そこで、過去の食材は検索できる食材マスタへ残し、その月に使うものだけを当月の原価表へ取り出します。目の前の表を見やすくしながら、以前の価格や規格を次のメニュー開発にも再利用する考え方です。

原価表が整えば、棚卸しにも同じ食材マスタを使える

将来の活用案として、原価リストを棚卸しへ展開する方法も検討しました。

現在庫を写真、メモ、紙などで伝え、AIが在庫数量と食材単価を突き合わせて棚卸し金額の初稿を作る構想です。原価計算のために整えた食材名、規格、単価を、月末の棚卸しでも再利用します。

ヒアリングでは、「店舗によっては棚卸しのために営業を止めることもある」という課題も挙がりました。経験の浅いスタッフでも短時間で確認できる形になれば、計算時間だけでなく、休業や人件費による機会損失を減らせる可能性があります。

ただし、これも現時点では実装後の成果ではありません。原価計算と同じく、読み取り精度と人の確認時間を一店舗で測る必要があります。

架空の1メニューで計算してみる

ここでは、仕組みを説明するために「鶏もも肉と季節野菜のトマト煮」という架空の一皿を使います。金額はすべて税別の例です。

食材 仕入れ 歩留まり 一皿の使用量 一皿原価
鶏もも肉 2,000gで2,400円 90% 180g 240円
トマトソース 1,000gで900円 100% 120g 108円
季節野菜 1,000gで800円 80% 100g 100円
生クリーム 1,000mlで1,200円 100% 40ml 48円
油・調味料 仕込み分から配分 40円
合計 536円

売価を1,600円とすると、食材原価率は33.5%です。

計算の基本は次のとおりです。

一皿原価 = 仕入価格 ÷ 仕入量 ÷ 歩留まり × 一皿の使用量

鶏もも肉なら、2,400円 ÷ 2,000g ÷ 90% × 180g = 240円です。

ここで鶏もも肉の仕入価格が15%上がったとします。鶏肉の一皿原価は276円、全体は572円、売価1,600円のままなら原価率は35.8%になります。

数字が表になっていれば、この再計算はその場でできます。さらにAIへ、次のような質問もできます。

  • 売価を変えない場合、どの数字を確認すべきか
  • 原価率を34%以内にするには、売価はいくら必要か
  • 仕入価格が5%、10%、15%上がった場合を並べる
  • 食材名は同じなのに、仕入規格が違う行を見つける
  • 歩留まりが未入力の食材だけを一覧にする

ただし、AIが提案したからといって、量を機械的に減らしてはいけません。味、満足感、盛り付け、ブランド、近隣価格を見て、人が決めます。

AIと表計算ソフトは、どちらを使えばよいのか

原価計算は、表計算ソフトだけでもできます。決まった式を毎回正確に計算することは、表計算ソフトの得意分野です。

今回の会社も、AIをまったく使っていなかったわけではありません。音声からレシピを作るところではChatGPTを使い、単価の参照には表計算ソフトの関数を使っていました。

それでも3日かかっていたのは、音声レシピ、納品書、食材一覧、原価表の間を、人が手入力でつないでいたからです。必要なのは新しい道具を一つ増やすことより、すでにある道具と資料の間をつなぐことでした。

AIが役立つのは、その前後です。

  • 紙や文章のレシピを表へ整理する
  • kg、g、L、ml、本、個などの単位をそろえる
  • 同じ食材の表記ゆれをまとめる
  • 未入力、単位不明、極端な数字を見つける
  • 条件を変えた比較案を言葉で頼む
  • 計算結果を、店長や料理長へ説明する文面にする

おすすめは、AIだけ、表計算ソフトだけの二択にしないことです。

**AIが散らばった情報を整え、決まった式は表で計算し、人が元データと結果を確認する。**この三つを組み合わせると、速さと再現性を両立しやすくなります。

AIに任せる仕事、人が残す仕事

食材原価は、仕入れや料理の事実に関わる数字です。自然に見える回答でも、推測が混ざれば使えません。

AI AND HUMAN ROLES

AIは下準備、人は事実確認、経営者は最終判断

AIに任せやすい 整える・計算する
  • レシピを表にする
  • 単位を換算する
  • 原価率を再計算する
  • 不足項目を見つける
人が必ず確認 数字を確かめる
  • 最新の仕入価格
  • 規格、単位、歩留まり
  • ロスと実際の出来高
  • 税込・税別の統一
人が決める 料理と商売を判断する
  • 味と量を変えるか
  • 売価をいくらにするか
  • いつ提供するか
  • 最終表を承認するか
AIの回答を原価表の完成版にせず、人が確認できる初稿として扱います。

AIへは、次のルールも一緒に渡します。

  • 分からない数字を推測しない
  • 単位が合わない場合は計算せず、要確認とする
  • 元にした資料名と更新日を残す
  • 計算式を表示する
  • 人が承認するまで完成扱いにしない

このルールがあると、速いだけでなく、間違いを見つけやすい原価表になります。

1店舗・1メニューから試す5ステップ

実際に試す際は、まず対象メニューを一つ決めます。以下は、インテグロースが提案する検証方法です。

全メニューを一気にAI化すると、どこで間違えたか分かりにくくなります。まず一つだけで試します。

ONE-MENU PILOT

現行の正解表と比べ、速さより先に正しさを確かめる

  1. 01一品を選ぶ食材数が多すぎない新メニュー
  2. 02元資料を集めるレシピ、仕入表、歩留まり
  3. 03AIで初稿を作る不明欄は推測せず止める
  4. 04現行表と照合する一円単位で差分を見る
  5. 05時間と修正を記録する次回の型として残す
一品で計算式と確認方法を固めてから、似たメニューへ広げます。

ステップ1.正解が分かるメニューを選ぶ

すでに人が計算した原価表があり、答え合わせできる一品を選びます。最初から複雑なコース全体を選ばないことが重要です。

ステップ2.元資料を一か所へ集める

レシピ、仕入価格、規格、歩留まり、出来高、売価をそろえます。どの資料が最新かも記録します。

ステップ3.AIには「初稿」を作らせる

完成表ではなく、確認待ちの原価表を作らせます。不明な欄、単位が合わない欄、異常に高い・低い欄へ印を付けます。

ステップ4.現行表と一円単位で比べる

合計だけでなく、食材ごとの差を見ます。差が出た理由を、単価、単位、歩留まり、使用量、端数処理のどれかへ分けます。

ステップ5.短縮時間だけでなく、修正量も残す

次の5つを記録します。

  • 元資料を集める時間
  • AIが初稿を作るまでの時間
  • 人が確認した時間
  • 修正が必要だった行数
  • 仕入価格を変えた再計算の時間

この記録があれば、初めて「3日が何分になったか」を自社の実績として言えます。

導入前に決めておきたい4つのこと

1.正しい数字の置き場所

最新の仕入価格と承認済みレシピを、誰でも同じ場所から確認できるようにします。AIより先に、正本を一つ決めます。

2.価格の更新日

食材価格は変わります。価格と一緒に更新日を残し、古い価格を使った場合は警告できるようにします。

3.確認する人

料理長は量と歩留まり、仕入担当は価格、経営者は売価というように、確認する場所を分けます。

4.記録してよい情報

仕入条件やレシピは大切な会社情報です。利用するAIサービスの保存先、閲覧権限、学習利用の有無を確認し、個人の無料アカウントへ無断で入れないルールが必要です。

よくある質問

写真に撮った納品書や手書きレシピからでも計算できますか?

読み取りを補助できる場合はあります。ただし、かすれた数字、税込・税別、箱入り数、小数点を誤る可能性があります。画像から起こした数字は、元画像と人が照合してください。

AIへ「この料理の適正原価を教えて」と聞けば十分ですか?

十分ではありません。店の仕入価格、量、歩留まり、売価がなければ、一般的な目安しか返せません。自店の数字を使い、計算式が見える形にします。

原価率が高い食材を、AIに自動で減らしてもらえますか?

計算上の案は作れますが、自動で決めるべきではありません。量を減らすと味、見た目、満足感が変わります。調理と経営を知る人が試食して判断します。

表計算ソフトがあれば、AIは不要ですか?

計算式が整い、入力も統一されているなら、表計算ソフトで十分な部分もあります。AIは、紙や文章からの整理、単位や表記の統一、不足項目の発見、条件比較を言葉で頼む場面に向いています。

本当に3日が一瞬になりますか?

現時点では実証前のため、そう断定できません。数字がそろった後の計算・再計算はほぼ即時にできますが、初回の資料収集、歩留まり確認、試食、売価判断には人の時間が必要です。一品で実測し、どの工程が何分になったかを確認します。

まとめ|原価計算を速くするより、次も速い仕組みを残す

全メニューの原価をまとめるのに3日ほどかかるという話から見えたのは、計算式の難しさだけではありませんでした。

  • 数字が複数の資料へ散らばっている
  • 仕入れとレシピで単位が違う
  • 納品書から単価を手計算し、表へ転記している
  • まとめ仕込みを一皿分へ割り戻している
  • 誰がどこを確認したかが、次回へ残りにくい

AIは、ここにある転記、単位換算、初稿作成、条件比較を速くできます。必要な数字がそろった後の再計算は、ほぼその場で終わります。

それでも、仕入価格の正しさ、料理の味と量、最終売価は人が決めます。

目指すのは、一回だけ早く計算することではありません。正しい数字、計算式、確認した理由を会社の知識として残し、次の新メニューでも同じ手順を使えるようにすることです。

Octopus AIは、会社ごとの資料と判断を蓄積し、情報整理、初稿作成、確認作業を人と分担するAI秘書です。原価計算そのものだけでなく、元資料の集め方、確認する人、更新手順まで含めて、小さな一業務から設計します。

新メニューの原価計算を、一品から仕組み化できるか相談する