新メニューの試作ができた。味はよい。では、いまの仕入単価で一皿いくらになるのか。食材の量を変えた場合も、すぐ比較できるだろうか。
飲食企業へのヒアリングでは、音声で説明した作り方をAIでレシピにしても、その後に食材・分量・単価を表へ手入力する工程が残っていました。納品書の単価を換算し、まとめて仕込む量から一皿分へ割り戻す作業もあります。
新メニューの原価計算でAIを使うなら、レシピを文章にするところから、仕入情報とつなぎ、試作案を比較するところまで設計する必要があります。 本記事では、その流れを架空のスープの計算例で説明します。
ヒアリングで見えたのは、工程の間に残る手入力
インテグロースが複数の飲食ブランドを運営する企業から伺った業務では、シェフなどが作り方を音声で説明し、一度AIでレシピにしていました。その後、担当者が表へ必要な情報を移し、仕入単価を参照して原価をまとめます。
この記録から分かるのは、レシピの文章化と原価表の作成が、まだ一続きになっていなかったことです。AIで一工程を速くしても、次の工程へ渡す形が合っていなければ、人が整え直す作業が残ります。
既存の原価計算のヒアリング記事では、全メニューをまとめる業務の負担を扱いました。本記事は、新メニュー一品の試作案を比較するために、何をそろえ、どこを再計算するかに焦点を当てます。企業名・人物名・実際の仕入価格やレシピは掲載しません。
レシピの文章から、計算に使う項目を分ける
「かぼちゃを入れ、牛乳でのばし、味を調える」という文章だけでは、原価を出せません。食材名、使用量、単位、仕込み全体の量、何皿分になるかが必要です。
音声からAIで項目を整理するときも、「少々」「適量」を勝手に数値へ置き換えないようにします。同じ食材名で複数の規格を仕入れている場合は、どれを使うのか確認します。
| レシピ側でそろえる情報 | 仕入情報側でそろえる情報 |
|---|---|
| 食材名・食材コード | 対応する品名・規格・コード |
| 使用量と単位 | 購入量と単位 |
| 使用量が仕入時か可食部か | どの状態で納入される食材か |
| 仕込みでできる皿数 | 適用する仕入単価と日付 |
| レシピの版・試作条件 | 税の扱い・単価に含む範囲 |
「1袋」と記録されていても、その袋が500gなのか1kgなのかで結果は変わります。AIには不足を一覧にさせ、元のレシピや仕入情報で確認します。合わない食材を、それらしい単価へ自動的に結び付けないことが大切です。
レシピ・単価・計算を一つの流れにつなぐ
AIが得意な情報の整理と、式が確認できる計算処理を組み合わせます。納品書などから文字を読み取る、音声を項目に分ける、食材の候補を照合する部分にはAIを使い、掛け算や割り算は決めた式で計算します。
新メニューの原価を、比較できる状態へ
- レシピを整理する食材・使用量・単位・仕込み量を取り出す
- 仕入情報と照合する食材の規格と、適用する単価を確認する
- 単位をそろえるkgとg、LとmLなどを換算する
- 式で計算する仕込み全体の食材費を、一皿へ割り戻す
- 試作案を比べる変えた条件と原価の差を並べる
- 担当者が確認する元の数字、実際の盛付量、味との釣り合い
一度つながれば、仕入単価だけが変わったときに、レシピを入力し直さず再計算する設計にできます。逆に、試作の使用量だけを変えた場合は、同じ単価表を使って比較できます。どの条件を変えたのかを分けて残すことが重要です。
架空のスープを使い、一皿原価を計算する
ここからのメニュー・数量・価格は、すべて説明用の架空値です。税抜の食材費にそろえ、仕込み全体を10皿に分けると仮定します。かぼちゃは皮などの処理を終えた状態で購入し、表の数量をそのまま使える条件です。人件費、光熱費、容器代などはこの表に含めません。
| 食材 | 仕入単価 | 10皿分の使用量 | 食材費 |
|---|---|---|---|
| 処理済みかぼちゃ | 500円/kg | 1,200g | 600円 |
| 玉ねぎ | 300円/kg | 300g | 90円 |
| 牛乳 | 250円/L | 800mL | 200円 |
| だし | 100円/L | 400mL | 40円 |
| バター | 2,000円/kg | 40g | 80円 |
| 調味料 | 仕込み分として設定 | 一式 | 20円 |
| 合計 | 10皿分 | 1,030円 |
かぼちゃは500円÷1,000g=0.5円/gなので、1,200gで600円です。牛乳は250円÷1,000mL=0.25円/mLなので、800mLで200円になります。
仕込み全体の食材費1,030円を10皿で割ると、一皿の食材原価は103円です。「調味料一式」の20円も、実務では担当者が決めた計算根拠を残します。この例の値を、そのまま自社の原価表へ流用するものではありません。
試作案と単価変更を、別々に比較する
同じ表で条件を一つずつ変えると、原価への影響を追えます。
| 比較案 | 基準案から変える条件 | 仕込み全体の食材費 | 皿数 | 一皿原価 |
|---|---|---|---|---|
| A:基準案 | 変更なし | 1,030円 | 10 | 103円 |
| B:かぼちゃを増やす | 使用量を1,200gから1,400gへ | 1,130円 | 10 | 113円 |
| C:仕入単価が上がる | かぼちゃを500円から650円/kgへ | 1,210円 | 10 | 121円 |
| D:盛付量を見直す | 同じ仕込み全体を9皿に分ける | 1,030円 | 9 | 約114.44円 |
各案はAから独立に変えたものです。Bでは一皿当たりのかぼちゃ量も増えるため、単純に同じ量・同じ味の商品として評価しません。Cは原料価格の変更、Dは盛付の変更なので、メニューを変える理由も異なります。
この比較なら、「かぼちゃを増やすと一皿10円上がる」「単価が上がった場合は18円上がる」と、何を変えた差かを説明できます。AIには、条件と結果を整理した比較表や、確認すべき項目を作らせます。採用する味、量、売価は担当者が判断します。
間違いやすいのは、計算式より前の条件
仕入量と、実際に使える量を混ぜない
皮や骨を除く食材では、仕入量と可食部の量が違います。たとえば架空の食材が500円/kg、可食部の歩留まりが80%なら、使える1g当たりの単価は500÷800=0.625円です。可食部1,200gを使うなら750円になります。
この計算を使うのか、実際の仕入使用量から直接計算するのかをそろえます。すでに歩留まりを反映した使用量へ、もう一度歩留まりを掛けると二重計算になります。
仕込み量と、提供できた量を分ける
レシピ上では10皿分でも、実際の盛付で9皿になれば一皿原価は変わります。加熱や移し替えによる減少も含め、試作で実際に使える量を確認します。
どの日付の単価を使ったか残す
購買部が更新した単価を使うのか、今回の仕入実績を使うのかを決めます。異なる単価表で作った二つの試作案を、レシピの差だけとして比べないようにします。店舗や仕入先で条件が違う場合も、どの条件で計算したかが必要です。
一品で試し、正解の表と比べる
最初の検証には、担当者が原価を確認済みの一品を使います。同じ食材・量・単価でAIを組み込んだ処理を行い、食材の対応、単位換算、仕込み合計、一皿への換算を順に照合します。
所要時間も、AIが出力する時間だけでなく、資料の準備、不足情報の確認、修正、最終確認まで含めて記録します。これで初めて、現場の仕事がどこまで軽くなったかを検討できます。
インテグロースでは、レシピと仕入情報の整理から、計算・比較・担当者の確認まで、実際の業務につながるAI活用を設計します。新メニュー一品の数字を、根拠を追って比較できる状態にすることが出発点です。
2026年9月の飲食企業へのヒアリングで確認した現行工程を起点に、当社が設計した活用方法です。計算例は架空値で、導入後の削減時間・精度は未測定です。以前のヒアリングにある「3日」は全メニューをまとめる業務を指し、新メニュー一品の所要時間ではありません。



